の3種類に大別される2。 またクリッキングは関節円板転位の復位性、クレピタスは何らかの関節疾患(骨関節炎,骨関節症等)、サッドは関節の過大運動*(不全脱臼)に多く見られる特徴である1。 しかし、関節音の種別のみによる顎関節障害の診断決定法はこれまでのところ疑問視されている7。
引き続いて顎関節の触診を行う(図6a)。 人差し指あるいは中指で顎関節に対して、
@外方からの触診に対する圧痛
A小開口させた状態で後方からの触診に対する圧痛
の有無が記録される1。 この場合の手圧は1〜2Kg(例:オレンジの皮がへこむ程度)で2秒間程度の持続した圧を加える8。 判定法としては患者自身の反応を基準とするが,0=無痛、1=少し痛む(不快感を感じる)、2=はっきりと痛む,3=激しく痛む,の3点法が一般的である1。 その際,術者は患者の正面に立って表情を読み取ることにより、2点と3点(無表情)と2点(顔をしかめる,目をつむる),をそれぞれ区別する。
Bell(1989)9によれば、顎関節の最外側に位置する外側靭帯に存在する侵害受容器は高閾値機械的受容器であり,関節内部の緊張が高まった場合のみに刺激される。 関節鏡視下で関節内部を直接観察した報告によれば、顎関節内障と診断された患者の多くに滑膜の顕著な炎症性変化が認められた10。 さらに同様な患者の滑液からは,炎症性組織中に存在する内因性物質であるプロスタグランジンやロイコトリンが検出された11。 したがって、顎関節の触診による圧痛は関節内あるいは周囲の炎症状態を示唆するものと考えられる1。
top
[筋肉の診査]
この診査の目的は、筋肉内局所の疼痛やトリガーポイント**および関連痛の有無を調べることである1,2。 顎関節と同様に,各々の筋肉は触診される。
一般的に触診法には、@フラット法、Aピンサー法、の2種類がある(図6)12。 骨の裏打ちのある筋肉の場合(例:咬筋、頭側筋)は フラット法(図6b,c)を、そうでない場合(例:胸鎖乳突筋,僧帽筋)はピンサー法(図6d,e)というように使い分ける。
判定法は、顎関節の場合と同様に3点法を用いる。 なお、触診が困難な筋肉に関しては誘発試験(test
of provocation)を応用するが,外側翼突筋(下頭)には圧に抗する閉口が一般的である1,8。
トリガーポイントは,しばしば筋肉内の“固いしこり”として表現されるが,必ずしも常にし触知できるわけではない。 したがって、圧痛点を約10秒間にわたって圧痛しつづけ、他の部位に痛みの放散を感じるかどうか,すなわち関連痛の有無を確認するという方法が一般的である(図6g)1。 その際,Travellら(1989)12による痛みの関連パターンは非常に参考となる(図7)。
関連痛のメカニズムに関してはいまだに不明な点は多いが,重要なのは疼痛原である原発性疼痛と関連痛(異所性 疼痛)を鑑別できなければならないという点である2。
通常、健康な筋肉には触診による圧痛は存在しないが14、現時点では筋肉の発生機序や病態に関する科学的根拠は十分とはいえない2。
過去においてTMDの原因論としては機能モデル(dynamic
model)が広く支持されていた15。sすなわち、咀嚼系の異常機能による筋肉の機能亢進は,長期にわたり関与する系に過大な生力学的負荷をもたらし、その系の機能バランスを崩してしまう(図8)。 ひとたび咀嚼筋の緊張またはスパズムを呈するようになると,スパズムを起こしている筋肉は痛み,活動は制限される16。 そして、この機能亢進を発現させる主要な因子として,不正咬合やブラキシズム等が取り上げられてきた。
しかし、最近の報告によれば,TMD症状の有無と安静時の筋活動レベルとの間に明らかな関連は認められず17、TMD患者群ではむしろ筋活動レベルは健常者群よりも低かった18,19。 したがって、必ずしも筋活動レベルの上昇が引き続いて同部位に痛みを発現するとは考えられない2。
Mense(1995)20によれば筋肉内にも知覚神経であるC線維、Aδ線維の侵害受容器が存在し、それらは内因性発痛物質(例:ブラジキニン、プロスタグランジン)によって容易に刺激され痛みを引き起こす。
90年代に入り、Sessle and Lund(1991)21らによって疼痛順応モデル(pain-adaptation
model)が提唱された。 すなわち、筋活動レベルや顎運動パターンの変化はあくまでも“疼痛”によって結果的に引き起こされたという考え方である。 咀嚼系への疼痛(侵害)刺激が筋活動レベルや顎運動パターンを変化させるということは、実験的に証明されている(図9)22,23。
top
[頸椎の診査]
臨床においてはTMDの患者の多くに頸部の症状が認められる1,2。 したがって、しばしば頸椎の疾患との鑑別を必要とするが、このための診査には姿勢や頸部運動範囲の評価が含まれる。 まず、患者に立位をとらせ、@頭部前方位、 A頭部の回転・傾斜の有無、を確認する(図10a)。 引き続いて、B伸展、C屈曲、D回転、E側屈、の順に運動を行わせ
(図10b)、運動制限と運動時痛の有無を記録する24。 頸部筋を含む筋肉障害の初期には痛みは運動時のみ発現するが8、疼痛とともに著しい運動制限および位置異常が認められる場合は、頸椎自体の疾患(例:硬直性脊椎炎)が疑われるため、専門医への紹介が必要となる。
過去においてTMDのためのスプリント療法によって頸部の症状が改善されたという報告もあるが25、TMD発症に関して三叉神経・頸神経には、@感覚的、A機能的、の2点で関連性があると考えられる。
神経生理学的な報告によれば26、疼痛(侵害)入力を中継する三叉神経の脊髄路核に頸神経(C2、C3)からの侵害入力も収束する。(図11)。
また、筋電図を用いた報告によれば27、咀嚼筋の収縮時に同時に頸部筋も収縮した。 あるいは頭部の前屈によって、舌骨筋、後頭頸椎筋、後屈によって、咬筋、胸鎖乳突筋の活動レベルが同時に上昇した28。
したがって臨床的には頸部と頭蓋・顔面部の痛みとは互いに影響試しあい、関連症状を生むと考えられる2。
[口腔内の診査]
TMDにおいても口腔内の診査は常に行われなければならない。
口腔顔面痛のうちもっとも頻繁に認められるのは歯原性疼痛であり2、 他の組織から歯への関連痛も含めて(図7参照)、TMDとの鑑別が必要になることがある。
TMDと歯原性疼痛との鑑別が困難な場合には、通常の局所麻酔による診断的ブロックが有効である1。 通常、疼痛発現部位に麻酔を奏功させない限り、痛みは軽減されない。
なお、口腔習癖(例:ブラキシズム)の可能性がある場合は、頬粘膜・舌の圧痕や著明な歯牙磨耗面の有無も調べる1。
top
画像検査
[パノラマX線撮影法]
顎関節を含む口腔顔面領域の画像検査は、同部の器質的疾患(歯・歯周組織・上下顎骨の病変)を除外するために必要である1,2。 一般開業医のオフィスでも頻用されているパノラマX線撮影法は、器質的疾患のスクリーニングに推奨されている(表1)1,2,29。
[経頭蓋X線撮影法(含、断層撮影)]
経頭蓋X線撮影法および頭部X線規格断層撮影法は、パノラマX線でのスクリーニングにより関節疾患の存在が疑われる場合の次なる検査法として一般的である。 しかし、従来有効とされていた下顎頭の位置による関節円板転位の診断には適していない1,2。
Pullinger(1986)30やKatzberg(1983)31らによれば、円板転位の有無と関節窩内の下顎位との関連性は明らかではない。
[軟組織の画像検査(含,関節腔造影撮影法、MR.)]
関節腔造影撮影法およびMRI(磁気共鳴撮影法)は、主に下顎頭に対する軟組織である関節円板の位置関係を確認する目的で用いられる1,2。
通常、高度な医療機関への紹介を必要とするこれらの画像検査法は、その検査結果によっては治療計画を変更する可能性のあるような症例にかぎって必要とされる1。
ある症例において、
@視診、触診による下顎の偏位および関節音(クリック等)の所見
A病歴による運動制限および関節音の既往
などから一次診断として関節円板転位の診断が可能な場合には、その時点での紹介の必要はないと考えられる32。
まとめ
図12は、前号で紹介した”クリッキングの既往をもつ30代のTMD患者”をまとめた診査表である。 実際の臨床においては、今回解説した診査の他に、補助的な臨床検査を必要とする場合もある1,2。
Fricton(1991)33によれば、TMD治療における最新の概念とは、”患者の身体的所見だけでなく、寄与因子にも対処する長期的なリハビリテーション”である。T したがって、補助的な検査には行動および心理社会的な要素を評価するための真理テストも含まれるが、この検査法に関しては次回補足説明する。
top
参考文献
1. Pertes RA, Gross SG(eds) : Clinical management of temporomandibular
disorders and orofacial pain . Chicago, Quintessence, 211-226,
315-328, 329-341, 1995. (杉崎正志、木野孔司、小林馨監訳:TMDと口腔顔面痛の臨床管理.
東京、クインテッセンス出版、1997)
2. American Academy of Orofacial Pain : Guidelines for assessment,
diagnosis and management. Chicago, Quintessence, 73-88,
113-184, 1996. (藤井弘之、杉崎正志監訳:口腔顔面痛の最新ガイドライン; 米国AAOP学会による分類、評価、管理の指針.
東京、クインテッセンス出版、1996)
3.正司喜信、藤本順平 :
一般開業医におけるTMDのスクリーニング.
ザ・クインテッセンス、 16 : 621-68, 1997.
4. Solberg WK :
Temporomandibular Disorders : Management of internal derangement. Br Dent
J, 160 : 157-161, 1986.
5.Agesberg G, Carlsson GE : Symptoms of functional disturbances of the
masticatory system : A Comparison of frequencies in population sample and
in a group of patients. Acta Odont Scand, 33 : 183-190, 1975.
6. Pertes RA, Attanasio R : Internal derangements. In: Kaplan AS,
Assael LA(eds) ; Temporomandibular Disorders: Diagnosis and Treatment.
Philadelphia, Saunders, 142-164, 1991.
7.Mohl ND, et al : Devices for the diagnosis and treatment of
temporomandibular disorders; Part U Electromyography and
sonography. J Prosthet Dent, 63 : 332-336, 1990.
8.1.
Okeson
JP : Management of temporomandibular
disorders and occlusion. ed2, CV Mosby St. Louis, 228-301, 1989
9. Bell WE :
Orofacial pains : Classification, diagnosis, management. ed4, Year
Book Medical Pub , Chicago, 114-150, 1989.
10. Murakami K, et al : Correlation between pain and dysfunction
and intra-articular adhesions in patients with internal derangement
of the temporomandibular joint. J Oral Maxillofac Surg, 50 : 705-708,
1990.
11. Quinn JH, Bazan NG : Identification of prostaglandin E2
and leukotoriene B4 in the
synovial fluid of painful dysfunction temporomandibular
joints. J Oral Maxillofac Surg, 48 : 968-971, 1992.
12. Travell
JG, Simmons DG : Myofascial pain and dysfunction : The
trigger point manual. volume 1, Baltimore, Williams
& Wilkins, 45-102, 1983.
13. Field HL : Pain. New York, McGraw-Hill,
133-169, 1987.
14. Frost HM : Musculoskeletal pain. In: Alling CC, Mahan PE(eds). Facial
pain , ed2. Philadelphia, Lea and Febiger, 137-142, 1977.
15. Parker MW : A dynamic model of etiology in temporomandibular disorders.
JADA, 120 : 283-290, 1990.
16. Laskin DM : Etiology of the pain dysfunction syndrome. J Am Dent
Assoc, 79 : 147-153, 1969.
17. Sherman RA : Relationship between jaw pain and jawmuscle
contraction levei : Underlying factors and treatment effectiveness. J
Prothet Dent, 54 : 114-118, 1985.
18. Visser A, et al : Masticatory electromyographic activity in healthy
young adults and myogenous craniomandibular disorder patient. J oral
Rehabil, 54 : 67-76, 1994.
19. Paesani DA, Tallents Rh, et al : Evaluation of the reproducibility of
rest activity of the anterior temporal and masseter muscle in asymptomatic
temporomandibular subjects. J Orofacial Pain, 8 : 402-406, 1994.
20. Mense S : Consideration concerning the
neurobiological basis of muscle pain. Can J Physiol Pharmacol, 69 :
610-616, 1991.
21. Seesle BJ, Lund JP : Neurophysiological mechanism. IN :
Temporpmandibular joint and masticatory muscle disorders. Zarb GA,
Carlsson GE, Sessle BJ, Mohl ND (eds). Munksgaard, Copenhagen,
188-207, 1994.
22. Schwarz G, Lund JP : Modification of rhythmical jaw movements by
noxiuos pressure applied to the periosteum of the zygoma in decerebrate
rabits. Pain, 3 : 153-161, 1995
23. Stohler CS : The effects of pain from the mandibular joint and muscles
on masticatory motor behavior in man. Archs oral Biol, 33: 175-182, 1988.
24. Klineberg I : Occlusion : Principles and assessment. Butterworth
Heinemann, Oxford, 147-159, 1991.
25. Wallace CJ, Klineberg I : Splint therapy for cranio-cervical
dysfunction(CCD). J Dent Res(Special issue), 69 : 114, 1990.
26Sessle BJ : The neurobiology of facial and dental pain : Present
knowledge, future directions. J Dent Res, 66 : 962-981, 1987.
27. David PL : Electromyographic study of
superficial neck muscles in mandibular function. J Dent Res, 58 : 537,
1979.
28.Fosberg C-M, et al : EMG activity in neck and masticatory muscles in
relation to extension and flexion of the head. European Journal of
Orthodontics, 7 : 177-184, 1987.
29. Cohen HV, et al : Diagnostic imaging of temporomandibular joint. Clin
Prev Dent, 10 : 24-28, 1988.
30. Pullinger AG, et al : Tomographic analysis of mandibular condyle
position in diagnostic subgroups of temporomandibular disorders. J
Prosthet Dent, 55 : 723-729, 1986.
31. Katzberg RW, et al : Internal derangements of the temporomandibular
joint: An assesment of condyler position in centric occlusion. J Prosthet
Dent, 49 : 250-254, 1983.
32. Eliasson S, Isacsson G : Radiographic sings of temporomandibular
disorders predict outcome of treatment. J Craniomandib Disord Facial Oral
Pain, 6 : 281-287, 1992.
33. Fricton JR : Recent advances in temporomandibular disorders and
orofacial pain. JADA, 122 : 25-32, 1991.