一般開業医におけるTMD治療<治療>

 

図は改変 一部略
1.はじめに
2.家庭療法(セルフ・ケア)
3.スプリント療法
4.非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)
5.理学療法
6.行動療法
7.長期管理
8.まとめ
9.参考文献

 

はじめに

  TMDの治療の目的は、@痛みの軽減、A有害な負荷の軽減、B機能の回復、C日常生活の回復、である。 これらの目標を達成するには、身体的異常だけではなく、同様に寄付因子にも対処する長期的な管理が必要となる1
  TMDのほとんどの症例においてその初期治療では保存的、可逆的な治療法が推奨される。 具体的な治療法としては、家庭療法(含薬物療法)、スプリント療法、理学療法、行動療法等がある。 通常、咬合調整、矯正治療、補綴治療などは、非可逆的なものと考えられ、初期治療には含まれまない。

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家庭療法(セルフ・ケア)

 家庭療法(セルフケア)をはじめるにあたっては、まず患者に現時点での原因について情報を十分に与え、注意深く説明する患者教育を行うべきである。 これらの詳細な説明によって、結果的に術者と患者の関係は良好となり、家庭療法(セルフケア)への協力度も高まるであろう
 家庭における簡単な理学療法も有効な手段となる2,3。局所に対する冷却・温熱(冷・温湿布)、その後の運動(エキソサイズ)によって疼痛を軽減し、可動範囲を増大させる。(図1〜3)。通常、冷湿布は72時間以内の急性外傷、炎症において用いられ、この点で温湿布とは区別されている1。なお、温熱療法のメカニズムに関しては、理学療法の項で解説する。

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スプリント療法

 TMD患者の治療でもっとも頻繁に用いられるのは、咬合スプリントである2。 スプリントはある診断に基づいた特定の治療目的のために使用されなければならない。 主な2種類としては、@スタビライゼーション・スプリント(図4)A前方整位型スプリント(図5)がある。

 スタビライゼーション・スプリント

 このスプリントは上下顎どちらにも応用できるが、通常は上顎に装着される。 医原製の咬合の変化を防ぐため全歯牙に被覆され2、下顎の安定した位置を得られるように咬合面は調整される。 この位置は、臼歯部での均一な前後・左右の咬合接触によって得られる。(図4)1通常、最小限の前歯誘導が、側方、前方運動時に臼歯部の離開を起こすように与えられる。  Rughら(1989)によれば、各種スプリント療法の治療成績については、タイプ別に明らかな差は認められない5。 また最近の報告によれば,口蓋のみを被覆し咬合面を被覆しない実験用スプリントは、通常の咬合スプリントとほぼ同様の治療効果を上げた6

  スタビライゼーション・スプリントの目的は、
       1.閉口筋の反射的リラクゼーション
       2. ブラキシズムの抑制
       3.関節への負荷の軽減
       4.関節の安定化
       プラセーボ効果
                   である6,7,8

 スタビライゼーション・スプリントは、夜間のみの使用の場合、咬合高経を増加させる以外には上下顎を変化させることはない。 このスプリントは円板転位においても適応となるが、その場合は円板転位の防止を目的としているわけではなく、あくまでも疼痛症状の改善を目的とするものである。

 下顎前方整位型スプリント

 前方整位型スプリントの適応症は、急性のクローズド・ロックおよび関節痛の場合である。 このスプリントは、上下顎のどちらかに装着され全歯牙を被覆する。 上顎の前方整位型スプリントの終日使用は、往々にして困難である。 このような場合は、夜間上顎用、昼間下顎用の交互使用が有効となる。 通常、スプリント上の咬合面の圧痕やガイド・ランプ(図5)により下顎は前方に整位される9

   前方整位型スプリントの目的は、
        1.関節への負荷の軽減
        2.関節痛の軽減
        3.関節円板の下顎頭と関節窩に対する位置関係の改善
                    である1,9

 前方整位型スプリントの長期間の使用に関しては、その効果が疑問視されているため“治療の成功”については再定義が必要である2。これまでの報告では、疼痛症状に関しては改善されてきたが、前方整位型スプリントをはずした場合、ほとんどの症例で関節音(クリッキング)は再発する10
  したがって、“治療の成功”を痛みと関節音の除去と定義した場合、前方整位型スプリントの成功率は上記の理由で低下するであろう。 しかしながら、仮に術者が無痛性の関節音を主訴に含まれる疼痛の軽減後に受け入れるならば、その成功率は満足すべきものとなる。
  なお、円板後方組織の適応性変化は短時間に起こると考えられているので2、通常、咬合の変化を防ぐためにも長期間の使用はできるだけ避けるべきである1
  患者の再評価において疼痛症状が軽減されている場合は、速やかにスタビライゼーション型に修整・移行される、スタビライゼーション方に移行後、症例によっては元々の症状が再発する場合もあるが、そのような場合は、外科療法の説明、検討が必要となる。

 スプリント療法からの離脱

 患者の症状が改善され、およそ3ヶ月間にわたって再発が見られない場合は、スプリントの使用を中止するよう指導する。 このスプリント療法からの離脱は、1日ごとあるいは平日(週末以外)のみの使用といったように徐々に、しかも目的意識をもって行われる。多くの患者で、行動認識療法等によって日中のブラキシズムを除去できたならば、昼間用のスプリント(通常は下顎)ははずすことができる。 しかし、夜間のブラキシズムを有する多くの患者では、夜間用スプリントの使用を中止すると症状の再発を見るため、症状が軽減されるまでスプリントを継続使用(数ヶ月間)する必要がある2

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非ステロイド系消炎鎮痛薬(NSAIDs)

 NSAIDsは炎症性物質であるプロスタグランジンの生合成を阻害することから、抗炎症、鎮痛作用を有すると考えられており(図6)、鎮痛薬としての頓服と抗炎症薬としての内服用に処方される。 TMD治療においては数週間に及ぶ内服薬として用いられることが多いが、適応症としては急性の関節痛や筋痛の場合である。

 実際の使用においては、第1にシーリング効果に注意すべきである。 すなわち、適量を超えてさらに増量投与しても、かならずしも効果は比例して増強されないという特徴である。 したがって、仮にあるNSAIDsに反応しない場合には、別の化学的組成からなるNSAIDsがまず試されるべきである(表1)

 副作用に関しては、常に治療マニュアルを手元に置き参照すべきだが、とくに胃腸、心臓、腎、肝疾患あるいは喘息、過敏症の既往歴を有する患者には注意を要する。

 高血圧患者に対する短期使用は禁忌ではないが、試用期間が長びく場合、血圧は定期的に検査されるべきである。 また、PGの生合成抑制により血小板機能障害を悪化させる恐れがあるため、出血傾向あるいは血液の異常を有する患者には禁忌である。 50歳以上の成人は長期使用において胃潰瘍を発展させやすく、食事とともに服用すべきことをかならず、患者に注意する。 さらに胃腸への負担が問題であればマーロックスのような胃酸中和薬と一緒に服用するか、あるいは胃腸を防護するための別の方法としてプロスタグランジン製剤(ミソプロトール=サイトテック)あるいはH受容体拮抗薬(シメチジン=タガメット、塩酸ラニチジン=ザンタック)の併用も可能である。 また、胃腸への負担を軽くし、持続時間を延長するための除放性剤も各種発売されており、服用回数も少なく多忙な患者などには推奨される。 最近では、NSAIDsのもつシクロオキシナゲーゼ(COX)1,2の双方への活性阻害作用のうち(図6)、COX2を主体的に阻害するエトドラク(表1)が開発され、従来の典型的な副作用を軽減することができると報告されている11,12

表1TMD治療のための代表的なNSAIDs

第1選択肢としてよく用いられるもの
Ibuprofen プロフェン
ナパセチン Napacetin(富山) 錠:100・200mg
1日600mg、分3
ブルフェン Brufen(科研) 錠:100・200mg
1日600mg、分3
Diflunisal ジフルニサル
ドロビッド Dolobid(バンユウ) 錠:125・250mg
1日500〜750mg、分2
Naproxan ナプロキセン
ナイキサン Naixan(田辺) 錠:100  カプセル300mg
1日600mg、分2

胃弱あるいは多忙な患者に用いられるもの
Ketoprofen ケトプロフェン
メナミン Manamin(RPR=中外) SRカプセル(法性) 150mg
1日150mg、分1
Nabumetone ナブメトン
レリフェン Reliefen(藤沢) 錠:400mg
1日800mg、分1
Etodolac エトドラッグ
オステラック Osteluc(日本ワイス) 錠:100・200mg
1日400mg、分2
Hypen(日本新薬) 錠:100・200mg
1日400mg、分2

(図6)NSAID2のもつシクロオキシゲナーゼ1,2双方への活性阻害作用機序

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理学療法

 理学療法は、筋骨格系の疼痛緩和とともに正常機能の回復を助けるためのものである。日常臨床的におけるTMDの管理のための理学療法としては,

     1.姿勢の改善
       2.運動(エキソサイズ)
       3.可動化(マニピュレーション)
       4.電気刺激
       5超音波

などの方法が推奨される。今回は、これらの中でも頻繁に用いられる運動、電気刺激,超音波について解説する。

 運動

 患者自身による運動療法は,関節や筋肉の柔軟性を取り戻し、正常な顎運動を取り戻すために行われる。 適応としては、関節円板の転移、過大運動、痛みによる二次的な筋機能亢進があげられる。
  TMDにおける咀嚼筋の機能亢進に対しては、患者自身による等尺性運動が推奨される(図3)。 この等尺性運動によりクリッキングをもつ患者22人中18人(およそ82%)のクリッキングが消失したと報告された。 なお,その際にしばしば温湿布による温熱療法が事前に行われる(図2)
  温湿布による皮膚の温度上昇で浅部血管は拡張し、末梢の循環が促進され局所の炎症性物質(プロスタグランジンなど)は取り除かれると考えられている15。 結果的に、原因筋は緊張を緩和し、運動の効果を高める。

 電気刺激

 神経生理学的研究によれば、皮膚を介して伝達される太い有髄神経線維からの介入は、痛みのインパルスを伝達する細い神経線維の入力を抑制する16。 経皮的電気神経刺激(図7) による刺激はこの太い有髄神経線維によって伝達され,疼痛入力を抑制すると考えられている(参考図)。Wessbergら(1981)は21人の筋・筋膜痛患者に対してTENSを用い86%の成功率を収めたと報告している17。 正確なメカニズムについては今後の研究に委ねられるが、電気刺激による痛みの軽減と、筋のストレッチなどを含む運動との併用は臨床的には効果を生んでいる。
  なお、ペースメーカー装着者、開放創、咽頭および咽頭筋、目への直接使用、あるいはてんかん発作、一時性局所性貧血、心臓疾患の既往のある患者の目、頭部,頚部,妊娠中の患者への使用は禁忌とされている18

  超音波

 関節周囲の関節包や咀嚼筋は、超音波を容易に吸収するコラーゲン繊維を含んでいる3。 超音波は3MHzの場合、皮下3cmまで達すると考えられている。深部の温度が上昇すると関節周囲の構造はその伸展性を増し、さらに局所の血流量を増すことで炎症を軽快させる3。 結果として痛みや腫れを軽減し、可動範囲を増大する。
  皮膚との間にゲルを介在させて,顎顔面領域の場合は1〜1.5watts/cu、急性期には0.5〜0.8watts/cuで3〜5分間使用する(図8)。 なお、目や発育途上の小児の骨端への直接使用、あるいは妊娠中の患者への使用は禁忌とされる18  

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行動療法

 バイオフィードバックなどによる悪習癖や行動様式の改変は、TMDに対する治療手段のなかでも重要な部分を占める。 しかし、これらを実際に行うには専門的な訓練を受けた治療者(臨床心理士、他)の助けを必要とする。したがって、一般開業医のオフィスにおいては視覚指標 (visual reminder)を含む、簡便な習癖破棄プログラム(図9)が推奨される。 このプログラムは、患者にブラキシズム、ガム噛み、長時間の悪い姿勢、過大な開口などの習癖を自覚、中止させるために家庭療法の一環として数週間単位で実施するように指導される。

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 長期管理

 初期治療が終了し患者の兆候の改善をみたら、1か月、3か月その後6か月ごとの再審査によう長期管理に入る。
  具体的には、問診と簡略化した審査を毎回行い、あらゆる永続的な寄与因子をみつけて必要ならばそれらを軽減、除去する。

まとめ

   一般開業医のオフィスにおけるTMD治療として、まず第1に行われるべきことは疼痛の管理であり、そのためには従来の歯科的アプローチにはみられなかったさまざまな治療法が用いられる。 しかしながら、その初期治療においては保存的(可逆的)治療法がまず選択されるべきであり、そうすることによって無用なトラブルを回避し適切な患者管理が可能となると考える。

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 参考文献

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