TMD(顎関節症)発症の原因と考えられるもの

 

外傷 全身的な病気
遺伝的/先天的な因子
老化 口腔の習癖
姿勢 硬い食物やチューインガム
不正咬合 歯ぎしり/ストレス

 

はじめに

  「TMD(顎関節症)はなぜ起こるのか?」としばしば尋ねられますが、我々の多くが個人的な経験から物事を判断するように、TMDの様々な疑問について専門家の間でもたくさんの意見の相違があるため、この質問に対する答えは簡単には見つかりません。これまでの報告によれば、病因(なぜ起こるのか)を明らかにしようと試みる多くの研究がいまだに結論を導き出していないか、あっても極めて非科学的なものです。したがって、ここでは現時点でTMDの原因として考えられるいくつかの可能性について解説することにします。
 
外傷
  一般に受け入れられている病因のひとつは顎・顔面への外傷です。たとえば顔を激しく殴打されるというような直接の外傷は、顎の骨あるいは関節に問題を引き起こすことでしょう。また、自動車事故による"むち打ち症"などによって関節の周囲組織や靭帯が引き伸ばされ、円板がズレる(転位)こともあります。結果的にこれらの外傷によって顎関節などの局所に痛みを引き起こし、それによって口が開け難くなってしまいます(1)

全身的な病気
  顎関節は、変形性骨関節症、リューマチ様関節炎、あるいは痛風といった全身的な病気の一部として現れる可能性もあります。顎関節の腫瘍は希ではありますが、下顎の機能を損なうことがあります。最近の報告によれば、大多数の患者さん達は関節よりも、むしろ筋肉(咀嚼筋)の痛みを訴える場合が多いとのことです。もし、アレルギー、慢性頭痛、リュウマチ様関節炎などの他の全身的な問題があると判断されたならば、TMD症状を引き起こすか、あるいはすでに存在している症状を悪化させるかもしれないこれらの問題をまず改善すべきです(2)


遺伝的/先天的な因子
  他の原因として考えられる因子に、遺伝的/先天的な要素、あるいは性と老化があります。しかし、これらの分野に関しては、これまでほとんど研究が行われてきませんでした。これまでの報告では、顎関節症が遺伝するかどうかはまだ解っていません。また、正常な顎関節といってもその形態なども含めてかなりの個人差があり、これまでのところ「理想的な顎関節の構造あるいは各構成物の位置関係」について意見の一致はみられていません。同様に、ある特定の解剖学的な形態あるいは位置関係が痛みや他の問題を引き起こすとも言い切れません。

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  男性も女性もTMDを発症しますが、治療を求めている多くは思春期から閉経期前の女性です。最近の研究は、性ホルモンと痛みとの関係に注目しています。ホルモン療法を受けている女性たちは、治療を受けていない女性よりも顎の痛みのために治療を受ける可能性が高い、あるいは、経口避妊薬治療を受けている女性たちでも同じくその可能性は高い、という報告があります。なぜ女性のほうが男性よりもTMDや頭部・顔面の痛みで苦しむのか?、ということについてはこれまでのところ結論は出ていません。しかし、いくつかの可能性は考えられています。TMDの症状は男性と女性にほぼ同程度認められますが、「治療を求めるかどうか」という点においては、女性が8対1の割合で男性よりも圧倒的に多いようです。なぜ女性の方が多いのかということに関しては様々な意見があります。まず、男性に較べて女性の方が日常的により頻繁に医療機関を利用する、あるいは、女性が痛みに関してより低い閾値(つまり敏感である)を持っているという意見があります。しかしながら、TMDに罹患している女性たちが18〜40歳の間に集中しているということからも、より詳細な科学的研究が顎関節の発達や顎の筋肉(咀嚼筋)の障害における女性への影響に関して行われるべきでしょう。動物のヒヒを用いた最近の研究では、女性ホルモンであるエストロゲンの受容器がメスの顎関節では見いだされたが、オスには見られなかった、ということが解っています。現時点ではホルモンの過剰放出あるいは逆にその欠乏が痛みや身体各部の機能に明らかな影響を及ぼすのかどうか、ということに関してはっきりした結論は出ていません。


老化
  米国における調査では、50歳以上の人々のおよそ3分の1が顎関節に骨関節症(osteoarthritis)の症状を持っています。骨関節症には体の多くの関節にみられる「標準的な老化現象」と、顎関節に限って影響を与える「病的現象」という二面性があります。したがって、老人に多く見られるこれらの症状のすべてをTMDと判断し治療が必要であると考えるべきではないというのが現時点での見解です(4)

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口腔の習癖
  まだ完全に証明されてはいませんが、TMDに関するいくつかの要因は、患者自身によってある程度コントロールすることが可能です。たとえば、舌を強く前に押し出す、口呼吸をする、大きなあくびをする、爪、唇、あるいは頬を噛む、といったような口腔のある種の癖(くせ)が問題を引き起こすと信じている人たちがいます。この考え方の基本は、ジョギングをする人々の膝(ひざ)が絶え間ない運動の結果として傷害を受け易いというのと似通った論理で、異常な位置に顎を置くことは関節の構造を弱め、すり減らしてしまかもしれないということです。しかし、このような口腔の習癖を持っている人々にTMDがより起き易いという科学的な証明は今までのところ見当たりません。


姿勢
  われわれが無意識に行う多くの日常的な動作は、頭、首、肩あるいは顎の筋肉に過度の緊張を引き起こすかもしれません。これらの動作には、耳と肩の間に受話器をはさむようにして電話をする、長時間おしゃべりをする、重いショルダーバッグを常に持ち歩く、バイオリンなどの楽器を長時間に亘って弾く、あるいは頭の位置を前方に置くような活動を長時間する、といったことなどが含まれます。TMDの発症における姿勢や作業習慣の関与については、いまだに様々な意見がありますが、問題を悪化させるようなことを出来るだけ避ける、という点では専門家の間でも大方の意見の一致をみています。

硬い食物 / チューインガム
  すでにTMD症状を持っている人の場合は、トウモロコシ、リンゴ、大きなサンドウィッチ、あるいは食べる時に口を大きく開ける必要のある物は極力避けるべきです。さらに、するめ、ナッツ、硬いアイスキャンディー、といったような硬くて分厚い物か、あるいはチューインガムを含む長時間むしゃむしゃと噛まなければならないような物はしばらく避けたほうが良いでしょう。

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不正咬合
  過去における原因論には、不正咬合(ふせいこうごう)、噛みしめ・歯ぎしりなどがあり、これまで大きな論争を巻き起こしてきました。TMDの原因に関する最も一般的な説明の1つが不正咬合、いわゆる「良くないかみ合わせ」によって起こる問題である、とする考え方でしょう。この理論の提唱者達は、不正咬合が顎の筋肉に余分なストレスを加え、それらの筋肉に痙攣状態を引き起すと信じてきました。そしてその状態は、悪循環を形成し引き続き痛みと更なる痙攣を引き起こすと考えたのです。専門家によっては、すべての不正咬合がTMDを引き起こすわけではないけれども、それが既存の問題を悪化させることがあるとも考えています。このかみ合わせ(咬合)の改善には、崩壊した歯や抜歯した部分を修復する、歯を削って調整する、スプリント(マウスピース様の装置)で顎の位置を修正する、というような一度行ってしまうと元に戻すことが困難な治療法が含まれます。一方では、最近の報告は不正咬合の理論に懐疑的です。これまでの学術的な報告では、「良くないかみ合わせを持っている人々」が「良いかみ合わせを持っている人々」よりもTMDに陥りやすいとは必ずしも言えません。実際には、良いかみ合わせを持っている人々でもTMDを発症し、ひどい不正咬合を持っている人々の多くがTMDを発症しません。さらに「理想的あるいは標準的なかみ合わせ」といっても、そこにはかなりの解剖学的な幅(バリエーション)があります。非常に関心は高いけれども、不正咬合とTMDとの関連性は現時点では科学的に証明されているとは言えません。


歯ぎしり/ストレス
  患者さんによっては、歯をギリギリこする(歯ぎしりをする)ことによってTMDを持ってしまう、そして、それはストレスが溜まっているからであると説明されることがあるでしょう。人口のおよそ4分の1の人たちに"TMDの有無にかかわらず"夜寝ている間の歯ぎしり・噛みしめが見られます。また、TMDを持っているすべての人々が歯ぎしりをするわけではありません。いまのところ、ストレスが歯ぎしりの原因でそれによって顎や顔面に痛みを引き起す、という点に関して結論は出ていません。今後の重要なテーマは、「歯ぎしり」という行動に影響を与えるかもしれない脳内の神経化学物質、あるいは神経機構そのものの解明ではないかと考えられています。なぜならば、それらの解明によって歯ぎしりの管理が可能となり、TMDとの関連性もより明らかになるからです。次に、TMDのために治療を求めている人々の大多数が女性であるということからストレスがTMDの原因、または、TMDを持続させてしまう最も有害な要素の1つとして広く受け入れられています。仮に一般的なTMDのための治療に反応しない場合、患者さんはしばしば心理的な障害を持っているのではないかと見られたりすることがあるかもしれません。このような不適切な説明によって多くの患者さんが意気消沈し、家族、友人、あるいは医療専門家から疎外されているように感じ始めるということがあります。これまでの報告では、TMD患者に特定の性格的特徴は発見できないし、症状の軽減に伴って通常は心理的な不安・混乱も消えていくという報告が多く見られます。したがって、TMDと心理的・感情的な問題との正確な判別、いわゆる鑑別診断が必要となります。

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まとめ
  TMDの原因に関する混乱あるいは説明不足のために、実際の臨床の場には様々な問題が存在してきました。これまで我々は痛みというものは何らかの問題の徴候であり、症状を和らげるにはまずその原因を取り除くことである、というように教えられてきました。もしその原因が明らかにならない場合には原因を仮定して、そして従来どおりの方法でそれを治療しようとするでしょう。仮に治療が失敗した場合には、他に何かを試みるか、あるいは患者さんに痛みを我慢するように言ってしまうこともあるかもしれません。このような不幸な状況は一刻も早く改善されるべきです。今後将来の研究によってTMDの原因が解明されたならば、将来起こるかもしれない問題のリスク要因を判別することができるようになり、結果的に予防も可能となることでしょう。    

*Michael Gelb. Home Page. New York,2001より改変引用

   OFPセンター 正司喜信


参考文献

(1) Ryan, Doran E., DDS. "Temporomandibular Disorders." Current Opinion in Rheumatology, 1993, Vol. 5, 209-218.

(2) Siegel, Richard, DDS. Milwaukee, WI. Telephone Interview, September, 1993.

(3) Marbach, Joseph J., DDS. "Click, Cracks, Crackles and Pops: The Great TMJ Pandemic." Executive Health Report, Vol. 22, No. 12, Sept. 1986..

(4) Dodes, John E. DDS. "Dubious Dental Care." Special Report, American Council on Science and Health, New York, NY, 1991, 1-12.


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