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概要と定義
過去において、いわゆる
”顎関節症”に関しては欧米でも様々な用語が用いられてきました。 これらには
"コステン症候群"
"TMJ dysfunction"
" Temporomandibular pain syndrome"
"Myofascial pain dysfunction syndrome (MPD)"
等があり、80年代に入って、"Craniomandibular disorders (CMD)"
という用語が一般的になりましたが、最近ではCMDと同義語である "
Temporo-mandibular disorders (TMD)"
という用語が学術の分野において広く使われるようになりました1。
TMDは単一の症状としてではなく、咀嚼系に関連する様々な症状が集合した症候群として捉えられるべきとされ、 治療を成功させる鍵は、どの器管からどの症状が生じているのかを見極めることといえます。 ほとんどの臨床的問題は、顎関節、咀嚼筋由来のものですが、別の組織(咀嚼系以外)も症状の源となり得ます2。 したがって、今日ではTMDでお悩みの患者さんを治療する歯科医においても、頭蓋顔面領域に痛みを起こす全ての障害についての基本的な知識は持っておくべきであると考えられるようになりました。
TMDは診断学的分類として、国際頭痛学会(IHS)が1988年に発表した"頭痛障害、頭蓋神経痛、顔面痛の分類" の第11項目に含まれるます(表1)1。 つまり、歯科医師はTMDの鑑別診断に際し咀嚼系とは無関係な疾患があることを考慮し、医師は鑑別診断で歯原性疼痛とTMDとを考慮しなければ適確な診断が不可能といえます。 米国においては、1995年よりAmerican
Board of Orofacial Pain (ABOP)
という認定医制度も確立され、歯科における新たな分野として認知されるようになりました。
表1 TMDの診断学的分類(AAOP, 0993:"TMD治療のガイドライン"
杉崎&藤井監訳より)
| <国際頭痛学会> 頭痛障害、頭蓋神経痛、顔面痛の分類 |
1.片頭痛
2.緊張型頭痛
3.群発頭痛と慢性発作性片側頭痛(hemicrania)
4.器質的病変のない各種頭痛
5.頭部外傷による頭痛
6.血管障害による頭痛
7.非血管性頭蓋内疾患による頭痛
8.原因物質の摂取または離脱による頭痛
9.頭部以外の感染による頭痛
10.代謝障害による頭痛
11.頭蓋、頚、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口、または他の顔面、頭蓋組織
による頭痛および顔面痛
12.頭蓋神経痛、神経幹痛、そして求心路遮断性疼痛
13.分類不能な頭痛 |

| 分類11で勧告された診断上の分類 |
11. 頭蓋、頚、眼、耳、鼻、副鼻腔、歯、口、または他の顔面、
頭蓋組織による頭痛および顔面痛
11.1 下顎骨を含む頭蓋骨
11.2 頚
11.3 眼
11.4 耳
11.5 鼻と副鼻腔
11.6 歯と関連口腔構造体
11.7 顎関節
11.8 咀嚼筋 |
疫学
この20年間のTMDに対する専門家および一般社会人の関心の高まりは、その訴えの増加ということが背景にあります。TMDは青年層(15〜20代前半)で急増し、その男女比は1:3から1:9と女性に多く見られる(図1)1。
他の歯科治療と比較してTMDの発症傾向と有症者の受診率は決して劣るものではありません。(図2)3。北米における100万人の成人を対象とした欠勤理由は、第一位から、頭痛、腰痛、筋肉痛、関節痛他と報告されています(図3)4。TMDはこのなかで頭痛のカテゴリーに含まれ(表1)、上半身1/4(頭、顔面、頚部)における痛みがいかに我々の日常生活を、ひいては社会活動をも阻害しているかという事が理解出来ることでしょう。
図1 TMDの性別、年齢分布(AAOP, 1993:"TMD治療のガイドライン"
杉崎&藤井監訳より)
図2 他の歯科疾患と比較してのTMDの発症傾向と有症者の受診率(Fricton,1991より引用、改変、省略)
図3. 米国における100万人の成人を対象にした欠勤理由(Solberg,1986
より引用、改変)
症状
TMDにおいてよく認められる症状は、下顎の運動制限、関節雑音、顎関節痛、顔面痛、耳痛、頭痛、首・肩の痛みとされます2。 通常、TMD症状は下顎の運動と機能に直接影響を及ぼし、もっとも頻繁に認められる自覚症状は痛みで(表2)1.4、患者さんが受診する最大の理由となっています5。
表2 TMD患者の症状(Solberg,1986より引用、改変)
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症状 |
% |
| 顔面痛(含む頭痛、歯痛) |
69 |
| 顎関節雑音 |
56 |
| 顎運動時痛 |
39 |
| 運動範囲制限 |
35 |
| 不快感(だるさ。つっぱり感) |
29 |
| 偏位(クローズドロック、ずれ) |
20 |
発症に寄与する因子
治療の成功は、われわれ医療者が患者さんの持つ症状にのみ注目して、他の発症に寄与する因子に注意を払わなかった場合には危ういものとなります。 AAOPのガイドラインによれば寄与する因子とは"
TMDの発症の、・素地になる、・引き金になる、発症後それを・持続させる、といった行動
的・心理的・生理的因子" とされます(図4)1。なかでも持続因子は治療の成果に多大な影響を及ぼすとされます。 具体的には、ブラキシズム(歯軋りやくいしばり)などの悪習癖、悪い姿勢(頭部前方位等)、睡眠障害、ストレス、感情的な問題、不適切なダイエット、そして共存する医科的(全身的)、歯科的な疾患等がふくまれます。
図4 発症に寄与する因子
診断・治療に関する新しい概念
TMDでお悩みの患者さんは身体所見と共に、行動・心理社会的な面からも評価されるべきであるとされます1。 この考え方には、TMD発症に寄与する因子が通常は多数存在し、それらを確認することで満足のいく管理が、はじめて可能になるということが臨床的な背景となっています。
複雑な(あるいは慢性の)問題を持つ患者さんには、通常の患者さんとは違った治療計画を立てる必要があります。 また、複雑な症例では一般歯科医が単独で治療するには困難な場合が多く、他の医療専門家の助けを必要とすることもあります。 この決定は担当者が治療の初期段階で行われなければならないといえます(図5)。一般的に、・多数の診断名、・正常な治癒期間を超えて持続した痛み、・複数の治療・薬物の既往、・痛みの訴えに付随した感情行動的な問題、が認められる場合は複雑と考えて差支えないでしょう2。
最近になって、TMDの分野にも慢性疼痛の概念が導入され3、心理的な因子は本来の組織損傷が治癒した後も痛みを持続させることがあるという考え方が一般的となっています(図6)7。
図5 TMD初期治療における再評価検査の位置づけ
図6 急性痛は体性感覚系の侵害刺激入力に影響されるが、疼痛が慢性化した場合、侵害入力よりも心理社会的要素に大きく影響されるようになる。
OFPセンター 正司喜信
参考文献
1. American Academy of Orofacial Pain.
Temporomandibular disorders: Guidelines for classification,
assessment and management. Quintessence, Chicago,
1993: 11-25, 61-79.杉崎正志,藤井弘之 監訳,TMD治療の最新ガイドライン;東京,クインテッセンス出版, 1993:13-27, 63-81.
2. Austin DG and Pertes RA. Examination
of the TMD patient. In: Pertes RA,
Gross SG (eds). Temporomandibular disorders and
orofacial pain. Quintessence, Chicago, 1995: 123-160.
3. Fricton JR. Recent advances in
temporomandibular disorders and orofacial pain. JADA
1991; 122:25-32.
4. Solberg WK.
Temporomandibular disorders: Background and the clinical
problems. Br Dent J 1986; 160: 157-161.
5. Schiffman EL, Fricton JR,
Haley DP and Shapiro BL. The
prevalence and treatment needs of subjects
with temporomandibular disorders. JADA
1990; 120: 295-303.
6. Parker MW. A dynamic model of etiology in
temporomandibular disorders. JADA 1990; 120:
283-290.
7. Okeson JP. Bell's orofacial pain. Chicago,
Quintessence, 1995:93-102.
8. American Academy of Orofacial Pain. Orofacial
Pain: Guidelines for assessment, diagnosis and management. Quintessence, Chicago, 1996: 73-88. 藤井弘之, 杉崎正志
監訳,口腔顎顔面痛の最新ガイドライン;米国AAOP学会による分類,評価,管理の指針。東京,クインテッセンス出版,
1996.
9. Pertes RA, Gross SG(eds).
Temporomandibular disorders and orofacial pain. Quintessence,
Chicago, 1995: 123-160.
10. Fields H L.: Pain. Newyork,
: McGraw-Hill, 1987:133-169.
11. Bell WE. Orofacial pains:
Classification, diagnosis, management. ed
4, Year Book Medical Pub., Chiccago, 1989: 114-150.
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